その4
  刃物用鋼材について

■刃物用鋼材について


理想の刃物用鋼材として求められるのは、錆びず、折れず、磨耗せずそしていつまでも良く切れる。しかし治金工学が進歩した現在でもその様な鋼材というものは残念ながら製造されて居りません。これは刃物を作るには焼き入れ処理を行いハガネを硬くする必要が有ります。その為にはカーボン(炭素)を沢山加えた特殊ハガネを作れば焼入れ硬度が高まり切れ味が良くなります。しかし、硬くなれば折れやすくなり、カーボンが多く含まれると錆び易くなります。
こうした現象を是正する目的で、錆びにくくする為クロームを加え、折れたり、欠けにくくする為粘りを出す必要からモリブデンを加えます。このように相対する性質の中で一番バランスの良い鋼材を求め現在も研究者は開発し続けているのです。
この様な事情ですから使用目的に応じた性質の鋼材が使用された刃物を選ばれる事をお奨めいたします。

【参考】
よくナイフに使われている154CM鋼はジェット・エンジンの高圧タービン用、440C鋼はベアリング用、D-2鋼は金型用、M-2鋼は切削工具用といった主要目的がある。
  耐錆性 刃持ち 粘り
実用硬度
440C HRC57-58
D-2 60-61
154CM 60-61
ATS-34 60-61
GIN-1(銀紙1号) 57-58
M-2  

■焼入れ硬度について

通常、硬度が高ければ切れ味、切れ味の持続性は良いが折れやすく、研ぎにくい。低ければ粘りは有り研ぎ易いが切れ味の持続性が悪い。
硬さの表示はビッカースとロックウェルのCスケールの2種が使用されておりますがナイフの場合は後者が一般的であります。HRC60を目安に通常のナイフの場合はHRC57〜59を目指し製造するナイフメーカーが多いようです。これはHRC60以上になりますと研ぎ直しが困難になり、欠けたり、折れたりする率が高まります。庖丁の場合ですと日本製に比べヨーロッパ製は硬度が低く、日本製の場合は関市で生産される庖丁と福井県の武生で生産される庖丁を比べますと武生の庖丁が平均的に硬度は高いようです。いずれが良いか? これは使用される方の使用目的に応じ刃物専門店でご相談される事をお奨めいたします。人によってはHRC56以下では軟らかく感じ、HRC58〜59が普通で、HRC60になると急に硬く感じ、HRC61〜64の間は数字が一つ上がるごとに硬さが微妙に判るとか言われますが食材を切って焼入れ硬度の判断が出来る方は羨ましいですね!私どもは硬度を知るためにはやはりロックウエル硬度計を使用し計ります。
近年硬度の高さを重視する傾向にありますが、ランドールなどは刃のねばり、研ぎやすさを重視した低めの硬度のナイフをつくり続けている。ドイツのゾーリンゲンのナイフも比較的硬度を低くおさえており、研ぎやすい。

■主要鋼材とその鋼材を使用したナイフの一例

CPM-S30V - 近年開発された鋼材で切れ味、耐摩耗性、錆に強いなどの特性があります。
クリスリーブ(Green Beret Knife)    

154CM - ナイフの神様 R.W.ラブレスが愛した鋼材。
R.W.ラブレス(ブーツナイフ他) マイクロテック(ソコム) ベンチメイド(690 Elishewitz)

ATS-34 - 154CMとほぼ同じ特性をもち非常に特性バランスの良い刃物用高級鋼材。
ベンチメイド(エクリプス)    

1095ハイカーボン − ハイカーボン(炭素鋼)で切れ味がよく刃持ちが良い鋼材。
オンタリオ(RAT-7)    

A-2 − 刃にねばりがあり、研ぎやすい。
クリスリーブ(Nkonka)    

AUS-8 − 良く使用されている一般的な刃物用鋼材です。
CRKT(E-LOCK STARLIGHT) ベンチメイド(ミニ・アンブッシュ)  

成分
----------
鋼材名
カーボン
クローム
コバルト
マンガン
モリブデン
ニッケル
リン
シリコン
硫黄
タングステン
バナジウム
窒素
H-1
0.15
14.-16.
2
.50 - 1.50
6.0 - 8.0
0.04
3 - 4.5
0.03
0.1
0-1
0.85-1.00
0.40-0.60
1.00-1.40
0.30
0.50
0.30
W-1
0.70-1.50
0.15
0.10-0.40
0.10
0.20
0.10-0.40
0.50
0.10
A-2
0.95-1.05
4.75-5.50
1.00
0.90-1.40
0.30
0.50
0.15-0.50
D-2
1.40-1.60
11.00-13.00
0.60
0.70-1.20
0.30
0.60
1.10
M-2
0.95-1.05
3.75-4.50
0.15-0.40
4.75-6.50
0.30
0.20-0.45
5.00-6.75
2.25-2.75
W-2
0.85-1.50
0.15
0.10-0.40
0.10
0.20
0.10-0.40
0.15
0.15-0.35
L-6
0.65-0.75
0.60-1.20
0.25-0.80
0.50
1.25-2.00
0.50
0.20-0.30
1095
0.90-1.03
0.30-0.50
0.04
0.05
5160
0.56-0.64
0.70-0.90
0.75-1.00
0.035
0.15-0.30
420J2
0.15
12.00-14.00
1.00
0.04
1.00
0.03
420 改
0.40-0.50
12.00-14.00
0.80
0.60
0.05
1.00
0.02
0.18
425 改
0.40-0.54
13.50-15.00
0.50
0.60-1.00
0.035
0.80
0.03
0.10
440A
0.65-0.75
16.00-18.00
1.00
0.75
0.04
1.00
0.03
440B
0.75-0.95
16.00-18.00
1.00
0.75
0.04
1.00
0.03
440C
0.95-1.20
16.00-18.00
1.00
0.75
0.04
1.00
0.03
440XH
1.60
16.00
0.50
0.80
0.35
0.40
0.45
AUS-6
0.55-0.65
13.00-14.50
1.00
0.49
0.04
1.00
0.03
.10-.25
AUS-8
0.70-0.75
13.00-14.50
0.50
0.10-0.30
0.49
0.04
1.00
0.03
0.10-0.26
AUS-10
0.95-1.10
13.00-14.50
0.50
0.10-0.31
0.49
0.04
1.00
0.03
0.10-0.27
GIN-1
0.90
15.50
0.60
0.30
0.02
0.37
0.03
ATS-34
1.05
14.00
0.40
4.00
0.03
0.35
0.02
154CM
1.05
14.00
0.50
4.00
0.30
ATS-55
1.00
14.00
0.40
0.20
0.50
0.60
0.40
VG-10
0.95-1.05
14.50-15.50
1.30-1.50
0.50
0.90-1.20
0.03
0.60
0.10-0.30
BG-42
1.15
14.50
0.50
4.00
0.30
1.20
MBS-26
0.85-1.00
13.00-15.00
0.30-0.60
0.15-0.25
0.04
0.65
0.01
MRS-30
1.12
14.00
0.50
0.60
1.00
0.25
CPM(T)440V*
2.15
17.00
0.40
0.40
0.40
5.50
CPM 420-V*
2.30
14.00
1.00
9.00
CPM 10V*
2.45
5.25
0.50
1.30
0.90
0.07
9.75
CPM 3V*
0.80
7.50
1.30
2.75
日立白紙
1.30
0.20
0.025
0.10
0.04
VASCOWEAR
1.12
7.75
0.30
1.60
1.20
1.10
2.40
CPM-S30V
1.45
14
2
4
0.2
CPM-S60V
2.15
17
0.4
0.4
0.4
5.5
CPM-S90V
2.3
14
1
9

日立青紙スーパー

1.4-1.5
.30-.50
.20-.30
.30-.50
0.025
.10-.20
0.004
2 - 2.5
0.5
0.3
20-CV
1.9
20
0.3
1
0.3
0.6
4
X-15 TN
0.42
15.55
0.46
1.7
0.3
0.017
0.23
0.002
0.29
0.21
ZDP-189
3
20
Sandvic 12C27
0.6
13.5
0.4
0.025
0.4
0.01
Sandvic 12C27改
0.52
14.5
0.6
0.025
0.4
0.01
52100
.98-1.10
1.3-1.6
.25-.45
0.025
.15-.30
0.25
*粉末合金の製造過程においてはカーボンとバナジウムが含有率が高くなります。

以上の成分表はスパイダルコ社提供のものを参照しました。




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